酒精強化ワインについて

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酒精強化ワインの種類

酒精強化ワイン。またまたわけの分からない名前が出てきました。でも何となくアルコールが強そうな感じはすると思います。最初から順番に読んでいる人は、お気づきかもしれませんが、甘口ワインの節で途中でブランデーなどを加えて発酵を停止させ糖分を残して甘口にする方法がありました。そうです、この様に本来のワインに対しブランデーやリキュールなどアルコール分の高いお酒を混ぜることによりアルコール度を高くした物を酒精強化ワインと言います。
貴腐ワインには世界三大貴腐ワインなるものがありましたね。同じように酒精強化ワインにも世界三大酒精強化ワインがあります。一つはポルトガルのポルト酒、そしてマデイラ、三つ目はスペインのシェリーです。この他にフランスのVDN(ヴァン・ド・ナチュレ)、VDL(ヴァン・ド・リクレ)があります。ここでは、この5つについて説明します。


ポルト(Vinho de Porto)

昔、赤玉ポートワインという甘口ワインが日本で売られていたこともありましたが、本物のポルトはこれとは大分違います。ポルトガルの地図を見ると北から1/5位の位置にドウロ川という川が大西洋に注いでいます。この河口にポルト市がありますが、ポルトはここから出荷をしています。葡萄はこのドウロ川上流のアルド・ドウロ地区で造られ、醸造もここで行われます。さて、その造り方を見てみましょう。

原料となる葡萄が先ず収穫されますが、黒葡萄と白葡萄両方が使われます。選果をしたあと破砕、プレスを経て直ぐに発酵に入ります。発酵が始まると葡萄ジュースの中の糖分が酵母によって分解されアルコールと炭酸ガスになっていきます。糖時計でこの発酵果汁の糖度を監視して、ある一定の糖度(10度位)に低下した頃合いを見計らってブランデーを添加します。実際には予め規定量のブランデーの入った樽に発酵果汁を移すようです。こうして糖分がワインの中に残った甘口のアルコールの強いワインができあがります。

このあと樽で熟成されオリ引きをして瓶詰め出荷されます。ポルトには色々なタイプがあり一般的なルビーポルト、タウニーポルト、作柄のよい年の葡萄のみで造られた高級品のヴィンテージ・ポルトなどがあります。 詳しくはポルトガルのワインで説明します。


マデイラ(Madeira)

ポルトガルの南西、モロッコ沖650Kmに浮かぶマデイラ島では島と同じ名前の有名な酒精強化ワインが造られています。辛口から甘口まで種類がありますが、甘口のものはポルトと同じように途中でブランデーを加え発酵を停止させます。清澄化が済んだワインはエストゥファと呼ばれる部屋に入れられ徐々に温度を上げ50〜60度位で数カ月(3〜4カ月、あるいはそれ以上)加熱による風味付け(酸化熟成)が行われます。このワインは酸化の為に茶褐色に変化しており、独特の風味を持っています。アペリティフや料理用に使われます。加熱による風見付けは、かつて船でマデイラ島の普通のワインを本国に運ぶ途中に大西洋上で船倉の温度が上がってしまって積まれていたワインが酸化してしまったのが始まりであろうと言われています。


シェリー(Sherry)

シェリーは小さな形のシェリーグラスでちょっとづつ飲みますね。昔はイギリスの上流階級で流行ったこともあったようです。産地はスペインの南西端ヘレス地方です。雨が数カ月も降らない乾燥した気候の場所でアルバリーサと呼ばれるチョーク質の土壌と相まって25%位まで糖度のあがるとても甘い葡萄が収穫されます。

選果が終わった葡萄はエスパルトというむしろの上で天日乾燥されます。これは更に糖度を高めるためです。そして破砕、プレスされて発酵に入ります。このときイエソと呼ばれる石膏を混ぜます。これは果汁の酸度を高め腐りにくくするするためです。そしてボタスという500〜600リットルの樽に7分目ほど果汁を入れて貯蔵します。ここで果汁を7分目しか入れないのはフロールと呼ばれる果汁の表面に繁殖する産膜酵母の繁殖を促すためです。この産膜酵母は普通のワインの樽貯蔵中にも発生する危険があり普通のワインの場合はこれが繁殖するとワインにシェリー香がついてしまって駄目になってしまうので嫌われ者なのですが、シェリーの場合はこの産膜酵母による香り(フロール)を逆に利用しています。
フロールが繁殖しやすいような条件にしているのですが、フロールの生えなかった樽も出てきます。ここでフロールが生えた樽と生えなかった樽を選別します。生えなかった樽からはオロロソというアロマティック香りのシェリーが造られます。選別が終わったワインにはここでブランデーが添加されアルコール度が高められます。ポルトと違うのはブランデー添加のタイミングです。

ポルトは糖分が果汁中に残っているタイミングでブランデーを加えましたが、シェリーは発酵が完全に終わり糖分が残っていない状態の果汁にブランデーが添加されます。このためシェリーは辛口になります。
ブランデーの加えられたワインはソレラシステムと呼ばれる樽を数段に積み重ねた100樽ほどの樽のいちばん上の段の樽に入れられます。一番したの段には古いワインが入っていますが、ここから製品としてワインを取り出し不足した分をすぐ上の段の樽から補充します。そしてここへも更にその上の樽からワインが補充されます。このようにして均一な品質のワインが造られます。最後にブレンドをして瓶詰め出荷されます。
フロールのついたシェリーはフィノ(Fino)と呼ばれキリッとした辛口のシェリーになります。このフィノを熟成させるとアモンティリャード(Amontillado)と呼ばれる琥珀色のナッツ風味のシェリーができます。


VDN(ヴァン・ドゥ・ナチュレル)

天然甘口ワインと言う意味ですが、訳さないほうが正しく伝わりそうです。主に南フランスの地中海沿岸地域(ラングドック・ルーション地方)で造られます。造り方はポルトと同じように発酵途中でブランデーを加えて果汁中の糖分を残す方法です。


VDL(ヴァン・ドゥ・リケール)

これは葡萄果汁を発酵させずいきなりブランデーを添加してしまう方法で、ワインと言うよりはカクテル(ないしはリキュール)と考えたほうが合っているかもしれません。

フランスのラングドック・ルーション地方のほか、シャンパーニュ地方、アルマニャック地方、カルヴァドス地方などでも造られています。





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